社会福祉協議会のデザインのお仕事で大切にしていること
福祉職やNPOの方の中には、デザイナーがデザインする際にどんなことを考えているのか興味があったり、簡単にすぐできそうなものなのに、なぜ時間がかかるのか、不思議に思う方もいるかもしれません。
そこで今回は、このホームページの制作事例でも多くのお仕事を掲載させていただいている、杉並区社会福祉協議会さんのお仕事を例に、デザイナー(というか僕の場合ですが)がデザインする時に大切にしていること、気をつけていること、しないようにしていること等について具体的に書いていきたいと思います。
読むと、デザイナー(というか僕)がどんなことを考えてデザインしているのか分かると思います。僕自身が「こうありたい」と思えるようにも書きたいと思いますので、よろしければ参考にしてください。
広報物をデザインする時のヒントにもしていただけたら嬉しいです。
「大切にしていること」の結論から言うと…
その広報物に求められる役割、つまり、「どんな人に、何を知ってもらい、どう思ってもらいたいのか?」を整理してから、デザインを考えはじめるということです。
すごく当たり前のことを言っているなと思うかもしれませんが、これが意外と難しいのです。
今回は杉並社協さんの「くらサポカード」のお仕事をさせていただいた時のことを例にして解説したいと思います。
まずはじめに杉並社協の方から「くらしのサポートステーション」のカードをリニューアルしたいと、お問い合わせをいただきました。
サービスの存在は知っていましたが、具体的にどんな方にどんなサービスをしているのか詳しくは知らなかったので、打ち合わせの前に自分なりに調べてみました。ホームページや広報物をチェックしたり、場合によっては担当の方に前もって情報を教えてもらったりして、
「どんな人に向けて、どんなサービスを提供しているのか?」
を自分なりに整理していきます。
デザインする前に打ち合わせで確認したいこと
僕の場合、テキストを読んだだけではなかなか頭に入らないので、ノートに書いてまとめます。
そうしながら同時に、打ち合わせで確認したい不明点や、デザインする上で聞いておきたいことをまとめます。自分の場合、基本姿勢として、自分が利用する立場だったら聞きたいことや知りたいことなど、サービスの受け手であるお客さんだったらどう思うか?を考えたりします。
今回の場合はカードのリニューアルのお仕事だったので、なぜリニューアルするのか?、くらしのサポートステーションの利用方法、今回リニューアルするカードと対象の方とはどんなところで出会うのか?、どういう相談のケースがあるのか?などを確認したいと思いました。
実際にまとめたノートです。ホームページを参考にしました。
そうして打ち合わせの際に、確認してみます。
情報としてはなんとなくわかったつもりでいても、実際にお話を聞いたり、サービスを提供している現場を見ると、イメージが立体的で具体的になり、状況を想像しやすくなります。
今回の場合、基本的なことと合わせて、「当事者の方にどんな声かけをしたらその方は窓口で安心できると思いますか?」と聞くことができたのがよかったです。
普段その場で当事者の方と接している職員さんから「あなたとの時間は大切なものです」「一緒に考えていきましょう」というお声かけをしているとの言葉を聞くことができたので、デザインする上での考え方が整理できました。
また、どんな方がサービスの利用をされるのかなどの基本的なことも詳しく聞くようにします。
そうして、そのカードの5W1H、つまり「どんな人に、どんな時に、どんな場所で、どうやって、どんな風に、何が伝わるツールなのか」が整理できてから、じゃあそのためにそのカードは、どんなデザインだったらいいのか?を考えます。
整理した内容をベースに、今回の例でいうと、子ども食堂で手渡されたシーン、カードが置いてある区役所や福祉施設のトイレで目にするシーンなどの手にする状況、また、その時のその方の生活状況や心理状態も可能な限り想像してみます。
その時に、どんなデザインのトーンで、どんな伝え方をすれば、その方にとってのメリットがきちんと伝わるのか?手にとってもらえるのか?を想像しつつ考えます。
どうデザインを考えていくか?
僕の場合、とにかく思い浮かんだものはノートにひたすら書いていきます。
こんな感じで書いています。
まずは、何を目的としているのか、どういう状況で見られるものなのか、見た人にどう思ってもらうことがゴールなのかを忘れないように書き、言葉やイラスト、浮かんだアイデアを描いてみたり、直接はデザインに関係ないようなふと思ったことも、できるだけ発想が小さくまとまらないように散らかすようにメモします。
時間が許せば、別日にノートを見返すと、時間を置いて客観的になれるので改善点が見えてきたり、より発展的なアイデアが出てきたりします。そうしてブラッシュアップしていきます。
どんなデザインのトーンにするかはっきり見えていないときは、ネットや本や趣味で集めているチラシやパンフなどをガサゴソと見ながら、雰囲気がイメージにあっているものを資料としてまとめておきます。
対象の方の日常生活などを知りたいと思うこともあるので、ネットで記事を検索したり、本を探して読んだり、映画やドラマやドキュメンタリーなどを探して見て、その方の日常生活や状況や感情を知ることで、その広報物がどんなメッセージを発信したら届くのか?を探ったりもします。
デザインの方向性が決まってきました。
そうして色々ノートに散らかした中から、良さそうなものを絞り込み、ある程度のイメージが固まった段階でPCでの作業に入ります。
僕の場合、いきなりPC上で考えようとしてもうまくいかないことが多く、時間に余裕のある状態でノートに散らかしてあーだこーだ考えてる時間が好きなので、このようなやり方をしています。また、思考の跡を残しておくと、何を考えて提案するデザインの形になったのかを忘れないので、デザインの意図をお伝えする時にも便利です。
PCで作る前に紙の上で構成を考えてからPCでの作業に入る方が結果的に早いことが多いと思うので、やったことのない方は是非一度お試しください。PCで実際に形にしてみると、よくなりそうだったのに案外イマイチなことも割とよくあります。そういう時は微妙な案は思い切って捨てて、実際に採用になってもいいと思うものだけを提案させていただきます。
今回のくらサポカードの例で言うと、キャッチコピーも提案させていただきました。文字要素はもらったものを使うことが多いですが、デザインしながらアイデアが出てきた時は提案させていただくこともあります。
今回のくらサポカードの場合は最初からコピーも込みで提案させていただくことになっていました。
数案提案した中から一案選んでいただき、色味とコピーについて修正依頼がありました。デザイナーにも色々な人がいますが、僕は制作物の主役はクライアントだという意識が強い方で、理由があってどうしても譲れないところ以外は、基本的には修正指示をデザインに反映させることが多いです。
ただ、修正指示の理由がよく分からない場合は聞くようにしています。理由もわからずに修正してしまうと、「届けたい人に伝わる」というそもそもの目的に反してしまう場合もありますし、理由が分かれば、他の修正方法をご提案できる場合もあります。
そんなふうにしてデザインを仕上げていきます。
まとめ
以上が基本的な流れになりますが、まとめとして重要なことを3つのステップに絞ってお伝えすると、
ステップ1
「どんな人に何が伝わったらいいのか、どんな行動をとって欲しいのか」を整理すること。
ステップ2
そのために、どんなツールを作ればいいのか?誰が、いつ、どこで、どうやって、どんな風に、何を知る広報物なのか、の「5W1H」を整理する。
ステップ3
それを踏まえて、じゃあ何を伝えたらいいのか?どう伝えたらいいのか?どんなデザインにしたらいいのか?を、あーでもない、こーでもないと自分なりに調べたり考えたりして最善を尽くす。
という流れになります。
色々なことを考えたり、調べたりしていると、次第に頭がこんがらがって、何を作ろうとしているのかわからなくなってきます。
そんな時には、「そもそも何をするためのツールなのか」「そのためにそもそも何をどう伝えるのか」の「そもそも」に立ち返れるようにしておきます。
この「そもそも」をしっかり整理しておくというのが結論になります。
そうすることで、伝わってほしいことが伝わるデザインに一歩近づけるはずです。
デザインをしなければならなくなると、いきなりどんなデザインにするか?を考えてしまいがちですが、なんとなく作り始める前に、今回のステップを順番に考えてみたら、伝えたいことが伝わりやすいデザインになるかもしれません。
試してみていただけると嬉しいです。